大会実行委員会企画シンポジウム

やっかいな「スポーツ精神」――フットボールとナショナリズムの現在
Problematics of ‘Sporting Spirit’: Football and Nationalism Today

日時:2026年3月15日(日)13:10~15:00(予定)
場所:日本女子大学 成瀬講堂

●開催の趣旨
2026年は、国際的なスポーツイベントが目白押しです。2月のミラノ・コルティナ冬季オリンピック、3月にはWBC、そして6月にはFIFAワールドカップが北米3か国で開催されます。日本では9月から10月にかけて名古屋で第20回アジア競技大会が控えています。ただ、世界に目を向けてみると、私たちは、紛争、戦争を抱える只中にあるのは確かです。実際、こうした大会に出場できるのはどの国か、誰なのかは常に論争の的となっています。
国際スポーツ大会では、選手やチームは国別に分かれ競技します。それはまた対抗意識やライバル関係が喚起させ、ナショナリズムへと結びつくことがあります。他方で、スポーツはこうした国、ジェンダー、人種等を乗り越えることもできます。グローバリゼーションとスポーツとの関係でいえば、「スポーツがつなぐ世界」と「スポーツが分ける世界」があるといえます(石岡, 2025: 21-41)。
スポーツがもつこうした力や作用にいち早く警鐘を鳴らしていたのがジョージ・オーウェルでした。彼は『トリビューン』紙(1945年12月14日号)に寄稿した「スポーツ精神The Sporting Sprit」というエッセイの中で、スポーツは疑似戦争であると述べました。では今日、「スポーツ精神」は、どのように発揮される(発揮されつつある)のでしょうか。またそれをどのように理解すればよいのでしょうか。大会実行委員会ではこうしたテーマを考えるために、本シンポジウムを企画しました。

紛争、戦争の只中での疑似戦争としてのスポーツについて、サッカーを中心に議論を深めることができればと思います。

文献:石岡丈昇編, 2025, 『スポーツで社会学する』有斐閣.

●登壇者

・川端康雄氏(日本女子大学名誉教授)
専門はイギリス文学・文化研究。ウィリアム・モリスとジョージ・オーウェルを中心に19-20世紀の文化と社会を研究。著書に『ウィリアム・モリスの遺したもの』(岩波書店, 2016)、『ジョージ・オーウェル―「人間らしさ」への讃歌』(岩波新書, 2020)、『ジョージ・ベストがいた』(平凡社新書, 2010)、他多数。

・アラン・ベアナー(Alan Bairner)氏 (英国ラフバラ大学教授)
専門は、スポーツと政治を中心に、ナショナル・アイデンティティとナショナリズムに焦点を当てた研究を行っている。ジョージ・ベスト他、北アイルランドのスポーツに関する著書がある。主著に Sport, Nationalism and Globalization: European and North American Perspectives (State University of New York Press, 2001)、John Sugdenとの共著にSport, Sectarianism and Society in a Divided Ireland (Leicester Univ Press, 1993)がある。また、国際的な学術誌Asia Pacific Journal of Sport and Social Scienceを刊行するなど、アジア・太平洋地域のスポーツに関する造詣も深い。

●報告要旨

ふたりのジョージの「スポーツ精神」

川端康雄(日本女子大学名誉教授)

ジョージ・オーウェルが「スポーツ精神」を書いたのは、1945年秋にロシア・フットボールの名門ディナモ・モスクワがイギリスに遠征し、チェルシーなど4つのクラブチームと対戦した後のことだった。戦前の予想ではサッカーの「母国」の名門クラブが相手では共産国の「アマチュア」クラブには勝ち目がないだろうといった楽観的な記事が散見されたが、ソ連リーグでこの年優勝を遂げたディナモは、当時としては最先端の戦術を駆使して、一敗もせずにモスクワに凱旋帰国した。英国のフットボール界は面目をつぶした。ディナモの遠征は、何らかの結果をもたらしたとするなら、双方に「新たな憎悪」を生み出した――そうオーウェルは言う。「それも当然のことだ。スポーツは諸国民のあいだに友好の念を生むとか、各国の庶民がフットボールやクリケットをやれば戦場であいまみえる気がなくなるだろう、などと人が言うのを聞くと、わたしはいつも呆れかえってしまう。…国際的なレヴェルではスポーツはまぎれもなく疑似戦争なのである」。
本発表では、この挑発的な主張の意味合いを彼の同年発表の「ナショナリズム覚え書き」での議論に照らして――また冷戦前夜という国際情勢の文脈に置いて――整理したうえで、往年のマンチェスター・ユナイテッドのスター選手ジョージ・ベストのキャリアを事例として、「スポーツ精神」の功罪について考察したい。

 

Football, national identities and nationalism: the curious case of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland (UK)

Alan Bairner (Loughborough University, UK)

The diverse relationships between sport and nationalism have been well documented with association football attracting a considerable amount of attention. The anomalous case of the United Kingdom stands out in this respect with a single nation state having four football governing bodies and related national teams. The Football Association (never the English Football Association) was founded in 1863, followed by the Scottish Football Association (1873), the Football Association of Wales (1876) and the Irish Football Association (1880). There can be little doubt that the existence of these associations and the teams that represent them have played a significant role in the maintenance of separate identities in the component parts of the UK. However, they have done so in differing ways and with different political and cultural implications. These will be the main focus of this presentation.