学会長挨拶
―第 32 回学会大会に寄せて― 菊幸一(筑波大学)
第32回学会大会が、久々に名古屋・中京地区にある中京大学豊田キャンパスで開催されます。前回のこの地区での開催は第17回(2007年度)大会で同じく中京大学の名古屋キャンパスでしたので、15年ぶりということになります。ただ、本原稿を執筆している現段階(11月初旬)では、新型コロナ第7波がようやく収束に向かいつつも徐々に高止まりの傾向があり、来年3月16-17日に予定されている本学会大会が3大会を経てようやく対面の大会として開催できるかどうかは予断を許しません。顧みれば、学会大会は秋田大学での第29回大会から、京都産業大学での第30回記念大会、そして昨年度の東海大学における第31回大会まで各大会実行委員会関係者のご尽力にもかかわらず、オンライン(web)開催を余儀なくされてきました。会員の皆さんには、そろそろ直接対面での大会で、相手の表情や雰囲気を感じ、会場の臨場感を味わいながら質疑応答を行い議論した、あの当たり前の時空間の共有を期待されていることと思います。対面か、オンラインかの決断は、これまでもたいへん難しい運営面の課題ではありましたが、実行委員会と学会理事会が協力・連携しながら進めていきたいと思っているところです。
一方で、3大会に及んだオンライン開催においては、オンデマンド方式による一般発表によって、これまでよりも時間をかけた、より充実した質疑応答が行われ、またシンポジウム等の見逃し配信による自由な視聴の確保など、対面開催にはない大会内容への充実したアクセスも図られたように感じます。M.マクルーハンはかつてメディアの特徴をホットメディアとクールメディアに区別して論じましたが、オンラインとオンサイト、あるいはオンラインにおける双方向性とオンデマンド性の違いが、学会大会の成果にどのような影響をもたらしているのかは、その経験自体が知の生産をめぐる興味深い社会学的テーマでもありえるのではないでしょうか。ただ、実際の運営において、どちらの長所も取り入れたハイブリット型を行うためには、それなりの予算規模と人員を要し理想通りにはいきません。が、限られた予算の範囲内で、これまでのオンライン開催で得られた長所を生かす工夫は、今後の対面の学会大会においても模索していかなければならない課題だと考えます。
ところで、先日(10月14-24日)約3年ぶりにフランスのパリを中心に、海外調査を行ってきました。まず、これまでの飛行経路であったロシア上空は避けられ、行きは北極点の真上を通り、帰りは中近東からトルコ、モンゴル、中国を通るルートでした。したがって、通常のロシア経路からは3~4時間多くかかり、加えて燃料費の高騰から航空運賃も通常の2~2.5倍の価格に跳ね上がっていました。また、パリ市内の物価も円安ドル・ユーロ高の影響もあり、日本の価格の2~3倍でした。世界をパンデミックに陥れた新型コロナ禍とその後のロシアによるウクライナ侵攻でもたらされた市民生活への世界的な影響を感ぜずにはいられませんでした。これからの日本における経済、政治、社会、文化へのあらゆる影響を予見しながら、このような社会変動によるスポーツとの関係や影響をどのように把握し考えていくのかは、今後のスポーツ社会学会にとっても大きな課題になっていくように思われます。
そんな中でパリは、現在、至るところで「環境オリンピック」を旗印にした市内緑化に向けた工事を行っており、市民生活にも着実に影響を及ぼしているように見えました。他方、日本では、ポスト「東京2020」に対する総合的な学術的評価は、これからの重要な課題です。
今学会大会が対面による新たな知の生産の場になることを期待し、祈念しています。