研究委員会企画シンポジウム

日 時:2023 年3月17日(金)14:35~17:05
会 場:2133教室

大会参加者へのシンポジウム動画期間限定公開について

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「Jリーグ誕生」がもたらしたもの

 

1993年5月15日に開幕した日本プロサッカーリーグ(「Jリーグ」)の誕生は、日本サッカー界のみならず、日本のスポーツ文化や社会に大きな変化をもたらす出来事であった。「日本サッカーの水準向上」という点では、それまでワールドカップに出場すら叶わなかった男子日本代表(「サムライブルー」)は、いまや出場常連国となり、2022年カタール大会では1次リーグで強豪ドイツ、スペインに勝利し、2大会連続でベスト16に進出するまでに成長した。また、今大会のメンバー26名のうち19名を「海外組」が占めていることが表すように、数多くの日本人選手がドイツ、イングランド、フランス、スペインをはじめとしたヨーロッパ諸国のリーグでプレーするようになっている。さらに、オリンピックについては28年ぶりの出場となった1996年アトランタ大会以降、7大会連続で出場を果たし、2012年ロンドン大会と2020年(2021年)東京大会ではベスト4という結果を残すまでに至っている。こうした中で、近年やや陰りは見えるものの、男子日本代表に対する注目度は未だに高く、「企業ナショナリズム」といわれる現象に巻き込まれながら、いまや一つの巨大ビジネスと化している。一方、「サッカーの普及促進」という点では、日本サッカー協会の「サッカー選手登録数」はJリーグ開幕以降増加傾向にあり、また、Jリーグの入場者数はコロナ禍前の2019年度にははじめて1100万人に到達し、J1の平均観客数は2万人を超えるまでになった。

Jリーグや男子日本代表の活躍に大きな注目が集まる一方で、女子サッカーはこの30年の間、着実に歩みを進めてきた部分もあるものの、さまざまな課題を抱えている。例えば、Jリーグが誕生する準備段階でリーグ参加の条件に「ファームチーム、2種、3種、4種のチームを保持すること」という項目が設けられたが、そこに女子は入っていなかった。また、女子日本代表(「なでしこジャパン」)は、2011年のワールドカップ優勝、2012年ロンドンオリンピック銀メダルという輝かしい実績だけでなく、ワールドカップでは1995年大会でベスト8、オリンピックでは種目としてサッカー女子がはじめて採用された1996年アトランタ大会に出場し、2004年アテネ大会ではベスト8、2008年北京大会ではベスト4と結果を残してきた。しかしながら、国内リーグ(「なでしこリーグ」)の人気は停滞気味であり、加えて、2016年リオオリンピックの出場権を逃すなど、代表強化の面でも課題を抱えつつある。この状況を打開すべく、2021年9月12日に女子プロサッカーリーグ(「WEリーグ」)が開幕した。1年目にあたる2021-22シーズンでは1試合平均の観客数では目標を大きく下回り、経営面での課題が浮き彫りになったものの、WEリーグの誕生が今後、女子サッカーの普及や代表強化という面でどのような変化をもたらすのか、注視していく必要があるだろう。

Jリーグがもたらしたのは、競技力向上や競技の普及、ビジネスといった面での「成功」だけではない。Jリーグの「サポーター文化」は、日本のプロスポーツに新たな応援スタイルを生み出したといわれている。加えて、Jリーグの理念である「地域密着」とその具体策である「ホームタウン活動」は、日本におけるプロスポーツ(チーム、クラブ)と地域社会の関係性を変えただけに留まらず、「シャレン!」の取り組みに象徴されるように、スポーツを通じて社会に変革をもたらそうともしている。さらに、こうした志向が、「女子サッカー・スポーツを通じて、夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会の実現・発展に貢献する」という理念を掲げているWEリーグのみならず、2000年代以降に誕生したプロスポーツリーグの運営にも波及している点も興味深い。

本シンポジウムでは、Jリーグが開幕してから30年という時間が経過した中での日本サッカー界の「現在地」について考えるとともに、Jリーグが導入した「サポーター文化」、「地域密着」といった概念や「スポーツを通じた社会課題の解決」といった志向が日本のスポーツ文化や社会にいかなる変化をもたらしてきたのかについて議論する。この作業を通じて、今後のサッカー(Jリーグ、WEリーグ)に関する社会学的研究の可能性や方向性について検討してみたい。

登壇者

シンポジスト:髙橋 義雄 (筑波大学)
松橋 崇史 (拓殖大学)
今井 純子 (公益財団法人日本サッカー協会理事/女子委員会副委員長)
指定討論者:有元 健      (国際基督教大学)
司  会 : 金子 史弥   (立命館大学)

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